環境省の資料によると、アパレル衣料品廃棄量は、毎年莫大な量となっています。日本国内だけでも年間約50万トンもの衣料品が廃棄されていると言われています。その大半が、使用済の服ではあるのですが、新品の衣料品廃棄も見過ごせる量ではありません。
参考:環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務-「ファッションと環境」調査結果
これは、服だけに留まらず、服になる前の生地も同様に、多くの生地が廃棄されています。
持続可能な社会を目指すためにも、このような大量廃棄に歯止めをかけるべきではないでしょうか?
今回は、そんなテキスタイルの廃棄にどのような対応策がされているか注目しました。
なぜテキスタイルの不良在庫が発生するのか?
生産過程
服が実際に店頭に並ぶまでに、たくさんの試作や工程を通ります。
下記は大手アパレルメーカーの一般的な流れの一例となり、アパレルメーカーによって、一部追加もしくは省略されることもあります。
アパレルブランドは生地の選定後、試験反などで生地のスペックを確認したり、色合わせ工程であるビーカー依頼をして、依頼通りの色に上がるかの確認をします。採用の検討段階で、社内・社外展示会用に見本反の作成をして、バイヤーからの評価や売れ筋を確認して、量産の発注数量を決めます。量産され、店頭に並びます。
この生産過程の中で、生地や縫製品の在庫リスクがあります。
不良在庫生地発生の原因
生地サプライヤー
生地サプライヤーは、量産品の確定までに、いくつもの試験品を作成します。その段階で、品質に問題があった試験品生地は使用予定がなくなり、在庫となってしまいます。
また生地は、非常に長さの管理が難しい商品です。染色などの過程で、生地が縮んだり伸びたりすることで、仕上がりの長さが毎回変わります。さらに、加工過程の中で、生地に汚れなどの不良欠点が発生し、仕上がりの長さにさらなるロスが発生することがあります。このようなロスを見込んで、サプライヤーは、発注に対して多めに生産することがあり、過剰に出来上がった生地は、引き取ってもらえない場合に行き場がなくなり、不良在庫化します。
テキスタイルコンバーター(生地問屋)形態の生地サプライヤーは、すぐに生地が欲しいというアパレルメーカーの要望に応えるために、在庫備蓄販売(カラーストック)を行っているところが多いです。先染め生地や糸から作りこんだ商品の場合は特に生産ロットが大きく、納期もかかるため、在庫備蓄の量も増える傾向にあります。需要予測した読み通りに生地の受注があればいいのですが、業態的に不良在庫が発生しやすい状態になっています。
縫製工場
生地を縫製して服を作る縫製工場にも、在庫リスクがあります。仕上がり品の検査時に、なんらかの原因で、汚れや傷などの欠点が縫製品にあると、出荷することができず廃棄処理されます。服の縫製は繊細のため、完全機械化する工場はまだ少なく、人の手で縫製されるケースが多いです。熟練度により、縫製ミスなどが発生することもあり、廃棄生地に繋がることもあります。
洋服1着あたりに必要な生地のメーター数を要尺(必要尺)と言います。アパレルの生産部門が生地巾などから計算して生産予定枚数の要尺を見積もり、生地や裏地、芯地などのアパレル付属品を発注します。万が一、足りない場合は減産となり、トラブルとなってしまうため、縫製工場側の営業努力で、「要尺を詰める」(1着当たりのメーター数を予定より少なくし、効率をあげる)ケースもあります。結果として、余剰生地が発生するということになります。
また不良在庫というわけではありませんが、裁断の際に、パターンに沿って、生地を裁断していきますので、必ず裁断くずが発生するという問題もあります。
一着丸ごと立体的に編み上げる無縫製ニットである島精機製作所のホールガーメントが評価されるポイントの一つとして、この裁断くずが出ないという点も挙げられています。
裁断くずへのアプローチとしては、シンフラックスが開発している、AI(人工知能)活用して裁断くずを発生しないようにするパターンメーキング 「アルゴリズミック・クチュール(Algorithmic Couture)」や裁断くずを再利用する取り組みである クラボウのL∞PLUS(ループラス)などがあります。
アパレルブランド
生地の多くは約30メートルから50メートルほどの反物単位での販売が基本となっています。メーター数を指定して必要なメーター数だけカットして販売する生地サプライヤーも増えてきましたが、少数派です。また、生地のカットには、人手がかかるため、アップチャージが発生します。また、そのカットした残りの生地がちょうど販売できればいいですが、処分に困るケースもあります。
そのため、アパレルブランドは、1反以上のロットで仕入れて、売り切ることができる販売力があることが理想とされてきました。しかし、ブランド立ち上げ時などは難しく、反単位で仕入れて、生地を余らせたり、製品化したものの、製品で不良在庫を抱えているというケースも珍しくはありません。
テキスタイルの不良在庫対策
アパレル業界は、流行の移り変わりの激しさから、在庫が残りやすい産業です。そんな中、テキスタイルの不良在庫を減らすにはどのような取り組みがあるでしょうか?
3DCG(3Dシミュレーション)
代表的なものとしては、島精機製作所のAPEX、韓国のCLO、イスラエルのBrowzwearなど、アパレル製品向けの3Dモデリングソフトを活用するシーンが増えており、人材育成のため、ファッション専門学校などでも専門のカリキュラムを新設する動ぎも出てきています。
生地データの取り込み精度の向上、アバターのバリエーション増加、レンダリング品質の向上により、OEM商社などを中心に積極的に導入が進んでいます
3DCGの活用により、実際に、サンプルを縫製しなくても簡単に出来上がりをイメージすることが出来るようになりつつあります。
アパレルの製造現場において、企画のスピードアップによる需要予測の精度向上、その結果として、不良在庫の減少。また、サンプル作成のための見本反作成を削減することができます。テキスタイルの不良在庫発生を抑制する効果が期待されます。
短納期対応(QR)企画
当たり前の話ですが、糸在庫→染色前生地(生機など)在庫→染色済み生地在庫→最終製品(衣料品)在庫と加工が進むにつれ、商品の用途は限られていき、不良在庫化するリスクが高まっていきます。
デジタルプリントの活用が進み、染色(プリント)までした生地で在庫ストックを持つのではなく、染める前の状態である生機やプリント下晒品(すぐプリントできるように加工した生地)で、生地ストックをもち、売れるたびに、必要な分だけ染色(プリント)していく動きが広まっています。
宇仁繊維株式会社は、豊富なプリント生地のバリエーションを持っていることで知られていますが、プリント下晒品の展開も豊富です。初回に、最低限の数量のアパレル製品を店頭に投入し、売れた分だけプリント下晒品にデジタルプリントして、クイックに追加生産して補充するという販売戦略が可能です。
セーレン株式会社のビスコテックス事業のように、消費者からバイオーダーで注文を請け、限りなく在庫ゼロを目指すというオンデマンドビジネスの動きも出てきています。
また、デジタルプリント以外でも、染め分けでの先染め表現ができる生機を製織し、染色前の状態で在庫ストックを持ち、短納期対応での納品できる企画を打ち出している企業もあります。通常、先染めの生地は糸染めが必要なため、生産期間も長く、糸染めロットも必要なため、販売時期を逃さないため、多めの在庫ストックをもち、不良在庫が出やすい傾向がありますが、この問題を解消しています。
明林繊維株式会社は、アセテートレーヨン素材で、後染め染め分けによるギンガムチェックやストライプの先染め表現ができる生機を作り、在庫しています。アパレルメーカーは、自社オリジナルカラーのギンガムチェックやストライプを先染めで作るより、大幅に短納期かつ小ロットで発注できます。
ECサイトの活用
消費者向けネット販売
従来、 テキスタイルの販売はルートが限られており、また、テキスタイルが最終製品でないことから、不良在庫がでても、なかなか処分する方法がないというケースが大半でした。しかし、現在は、Amazonや楽天に代表されるようなECサイトでの販売も容易になり、在庫販売につなげるケースも増えています。アパレル業界以外の一般の人たちの手にも渡るようになりました。
コロナウィルス拡大初期、マスクの供給が追い付かないタイミングで、生地を購入して、 布製マスクを手作りするという動きが見られました。このことも今まで、企業向けにしか販売してこなかった生地サプライヤーに消費者向けネット販売に挑戦する大きなきっかけになったのではないでしょうか。
不良在庫生地販売サイト
従来でも「見切り屋」「バッタ屋」などと呼ばれる生地の不良在庫を専門的に取り扱う業態は存在していたのですが、大っぴらに語られることが少なく、あまり注目されることがありませんでした。しかし、SDGsの考え方の浸透により、風向きが変わってきました。
欧米では、サスティナビリティへの関心が高く、ニューヨークを拠点とする生地の不良在庫のマッチングプレースQUEEN OF RAW やLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトンが立ち上げた、余剰生地を販売するサイト Nona Source、イギリスのOFFSET WAREHOUSEなど複数の不良在庫生地を販売するオンラインサイトが相次いで立ち上がっています。
国内では、スマセルなどアパレル製品の不良在庫のマッチングサービスは立ち上がっており、ますますこの動きは拡大していくと考えられます。
SDGsプロジェクト
様々な団体、社会起業家も生地の不良在庫問題解決にむけてアクションを起こしています。
eduCycle
「eduCycle」とは株式会社サティスファクトリーが提供しているサービスで、「ゴミとして捨てられてしまうものを使い、新たな価値を生み出す“アップサイクル”で、楽しみながら創って学ぶ、環境教育プロジェクト」です。
eduCycleの活動の中では、アパレル企業から集めた生地を子どもたちの教育の教材として使用されます。例えば、その生地を使ってヘアーアクセサリーを作るなどして、廃棄生地に新たな価値を生み出す活動がされていました。
(参照:環境教育事業(eduCycle) | 事業内容情報 | 廃棄物処理のことならサティスファクトリー (sfinter.com))
Clothes Renovation Contest
Clothes Renovation Contestは、MODALAVA株式会社が開催する廃棄予定の新品未使用の洋服や服飾副資材を参加者に提供し、自由にリメイクを楽しみながら廃棄を減らすことが目的のファッションリメイクコンテストです。吉岡株式会社、株式会社SHINDOなどの繊維サプライヤー企業がコンテスト参加者へ廃棄予定資材を提供されます。
(参照:「衣服ロス」と立ち向かう、クリエイターコミュニティ atelier HIKITSUGIによるリメイクコンテストを今年も開催! ~参加申込期限は6/20、Instagramに投稿でエントリー~)
NewMake
NewMakeは、株式会社STORY&Co.が運営する循環型ファッションの実現を目指すファッションコミュニティです。協力会社より、提供をうけた洋服・繊維資材などを利用して、コミュニティのメンバーが、サスティナブルな服作り・アップサイクルを手掛けるコミュニティです。東急不動産株式会社と連携し、表参道にて2021年7月26日よりスタート予定となっています。複数のファッションブランドやスタイレム瀧定大阪株式会社などが参加します。
(参照:15億着の衣服ロスを救う、循環型ファッションの実現化を目指した新サービス サスティナブルなファッションコミュニティ「NewMake」 が7月26日より表参道にオープン)
サステナビリティを意識したファッションビジネス
スローダウン
ファストファッションのように、最新の流行スタイルを大量生産で低価格販売するスタイルは、生地のロスや廃棄衣料品が出やすくなります。ファストファッションは環境負荷も大きく、アパレル業界では見直しがされています。そんな中で、徐々にスローダウン思考が高まっています。”いいものを長く着る”をコンセプトに、流行り廃れのない定番色や、定番のガーメントパターンなどを用いて、耐久性に重視する服作りにフォーカスする企業も増えています。スローダウンファッションは、ファストファッションと比較すると、生産量を減らすことができるほか、長く販売することも可能で、生地も衣料品ロス削減に大幅に貢献できると期待されています。
#rewiringfashion
#rewiringfashion はDries Van Notenのオープンレターがきっかけとなり、BOF(The Business of Fashion)がファシリテーターとして、ファッションデザイナー、小売店のグループより出された新しいファッションカレンダーの提案です。
リアルな季節感と合っていないコレクションスケジュールや多すぎる開催数、メンズとウィメンズを別々に開催していることによる非合理性や、ショーから店頭販売までの期間が長く、ファストファッションの模倣がおきやすい状態の是正。また、ディスカウントを抑止し、プロパー販売期間を長くすることなどを提言しています。
こちらの動きが広まることで、見本反作成の無駄やディスカウントされる商品の減少で、生地並びに衣料品のロスの削減にもつながると考えられます。
まとめ
- 廃棄の原因
試験反試作や欠点ロス、長さ管理の難しさ、流行り廃れによる売れ残り
- テキスタイルの不良在庫対策
- 3DCG(3Dシミュレーション)
- 短納期対応(QR)企画
- ECサイトの活用
- SDGsプロジェクト
- サステナビリティを意識したファッションビジネス
衣料品の廃棄問題は深刻で、フランスでは2020年2月、売れ残った衣料品の廃棄を禁止する法律が公布されました。衣料品のリユースや、店舗回収によるリサイクルなど、衣料品の対策は進められています。
完成品の服に注目が浴びがちですが、服になる前の生地の不良在庫も大きな問題となっているのです。サステイナブルファッションへシフトしていく中で、このようなテキスタイルの不良在庫問題も取り上げられることも増えてきていると感じます。
サスティナビリティへの意識が高まることはいいことだと思いますが、QR対応をするために、加工業者に過剰な負担がかかったり、流行り廃れのない定番にすることで、ファッションの楽しさが損なわれてしまったり、いいことばかりではないという側面もあります。様々な角度から議論が続けられていくことを期待します。
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